「JLPT対策をしたい」というニーズは、教師・学習者ともに高いです。ですが実際、何をすればいいのでしょうか?
様々なテキストやコンテンツがあって、何をどう使えばいいかわからない。
そんな方が授業を考える際のヒントになればと思い、今回の記事を書いています。
※日本語能力試験とJLPTは同じものです。ここではJLPTに名称を統一して、説明していきます。
JLPTとは
日本語能力試験は、日本語を母語としない人たちの日本語能力を測定し認定する試験。(中略)2011年には世界62か国・地域の約61万人が受験する世界最大規模の日本語試験に成長いたしました。
日本語の能力を測る試験の中で最も有名で、入試や就活などの際にもよく使われる試験です。
https://www.jlpt.jp/about/message.html
試験は7月と12月の年2回行われ、当然その2-3ヶ月前には「JLPT対策授業」のニーズも高くなります。
JLPTのレベルは、N1(難しい)〜N5(易しい)までの5段階あり、点数(尺度得点)によって合格/不合格が決まります。
試験科目は言語知識(文字・語彙・文法)、読解、聴解で、試験時間は165分(N1)〜90分(N5)です。
「JLPT対策」の本当のニーズ
※ここからは「オンラインレッスンでJLPT対策レッスンを行う」という前提で考えていきます。
JLPT N3の勉強がしたいです!
というような依頼を受けることがあると思います。実はこのような依頼の中には、様々なニーズが隠れています。
事前に学習者(依頼者)にしっかりとヒアリングし、本当のニーズを把握しておきましょう。もしこのニーズを履き違えると、学習者の期待とは全く違うものを提供してしまう危険性があります。
これから学びたい人
一つ目のニーズは、「N3の試験範囲・内容をこれから学んでいきたい」という希望です。
N4に合格したので次のステップとしてN3に挑戦したい、これからN3の文法や語彙を学び始める、という学習者をイメージしてください。
このような方は、学習項目を一から学ぶ環境を期待していることが多いです。まずは語彙や漢字を学習しつつ、文法などの基礎知識を身につけていくことになるでしょう。
“練習”がしたい人
二つ目のニーズは、N3の学習は終わっており(もしくは自分でできる)、「試験に合格するための練習がしたい」という希望です。
以前N3に挑戦したが不合格だったという学習者をイメージすると、わかりやすいと思います。
※あくまでイメージの話であって、もちろんそれ以外の人もいます。
このような方には、学んだ知識を活かして試験に合格するためのテクニックを教えていきます。練習問題や模試を解きながら、点数をアップさせるための指導をすることになるでしょう。
↓試験直前に確認したい、学習者のためになるお役立ちテクニックはこちら。↓
オンラインでの教え方
オンラインレッスンでも「JLPT対策レッスン」の需要は高いですが、実際やるのはかなり難しいです。なぜなら、JLPTはレベルがN1〜N5まである上に、カバーしなければならない範囲が文字・語彙・文法・読解・聴解と、かなり広いからです。
毎日4時間、週5日日本語の勉強に時間をさける日本語学校の留学生とは違い、オンラインレッスンを受けるような学習者は、多くても1日1時間(大抵は週1回1時間程度)レッスンを受講するという方が大半です。そんな中で、上記のような範囲を網羅的に教えることはほぼ不可能です。
オンラインレッスンでは、学習者の自習に頼らざるを得ないと初めから割り切って、自分(教師)ができること、そして必要最低限のところだけをお手伝いするというスタンスで依頼を受けないと、自分の首を絞めることになります。週1回のオンラインレッスンで、1から10まで全てを「教えよう」とすると、教師は身を滅ぼします。
そうならないためにも、〈学習者が自分でやること〉〈教師とレッスンで学ぶこと〉を分けて考え、計画的に取り組むことが必要です。
反転授業を取り入れよう
私は「JLPT対策レッスン」をやめました。理由は、おもしろくなかったからです。事前に文型について調べたり、使用場面を考えたりするのも大変で、すごく負担に感じていました。
それでも、私を頼って「JLPTに合格したい!レッスンして!」と言ってくる学習者さんがいました。ありがたいことです。せっかく私を頼って来てくれたなら…と思い、「教師の負担にならない方法」を考えました。それが反転授業です。
今の時代、学習者一人でも「読めばわかる」「見ればわかる」ような学習コンテンツが、世に溢れています。そしてそのようなコンテンツは、非常に優れたものです。これを使わない手はない!と思いました。
出口先生のYouTubeチャンネルには、ほぼ全てのレベルの文法解説動画が揃っているのではないでしょうか?(確認はしていません。)ターゲットが中国語話者なので、中国語訳が書いてあったりしますが、先生の解説は日本語なので学習者の使用言語は問いません。
私はこの再生リストから、使用するテキストの該当課に出てくる文型の解説動画を探し出し、レッスン前に学習者に送りました。学習者には、次のレッスンまでにその動画を見てきてもらい、同時にテキストの問題にも取り組んできてもらいました。レッスンでは、動画で学んだこと(感想)を聞いたり、間違えた問題を解説したりする、という反転授業を行ったわけです。
こうすることで、教師の授業準備は「動画を探して送る」ことだけになり、準備や授業が負担に感じなくなりました。動画を探しながら自分も内容を確認すれば、文法の勉強も同時にできてしまいます。一石二鳥です。
コーチングを取り入れよう
学ぶことがたくさんあるのに、そんなにたくさんの授業時間を確保できないオンラインレッスンの場合には、コーチングの手法・考え方を取り入れることをおすすめします。教師が知識を与える“講義型の授業“ではなく、どうしたら学習者が自分で学んでいけるのかを考え、そのお手伝いをするという考え方です。
教材を使って学習者が一人で学ぶことができる学習計画を一緒に考え、その成果(学習状況)をモニタリングし、レッスン時間には質問を受けてわからないところを解説します。そうすることで、自立的な学習者を育てることができるし、教師は学習者が分からなかったところだけを解決できれば良いので、負担はかなり少なくなります。教師が1から10までを教える必要はないのです。
日本語のレッスンでコーチング?
と思った方は、ぜひこちらの本を読んでみてください。↓
私はこの本を読んで、かなりレッスンスタイルが変わりました。コーチングの考え方を持って学習者と接することで、レッスンで「教える」ことをほとんどしなくなり、学習者の主体性を引き出すような指導ができるようになったと思っています。
じゃあ、教師は学習計画・モニタリング・質問への回答だけをやっていればいいの?
というと、そうでもありません。学習者に合った学習計画を立てるためには、そのために使えるリソースの知識が必要です。教師が色々なリソースを知っていれば、学習者の学習方法や選択の幅も広がります。
※ここで言うリソースとは、テキストや問題集だけではなく、動画などのコンテンツや各分野の指導に長けている教師、学習方法、学習グループなど、学習者の日本語学習に使えるあらゆるものを指しています。
おすすめリソース
私のイチオシを紹介していきます。しかしこれが全ての学習者に使える・有効だというわけではありません。一つの情報を鵜呑みにせず、自分の目で見て確かめ、学習者それぞれの依頼や要望に合うものを選んでください。
そして「これで勉強しなさい」と学習者に押し付けるのではなく、「これとか、これとか、こういうのもあるよ」と選択肢を示し、学習者自身に選んでもらうことが大切です。
これから学びたい人向け
これからJLPTの勉強を始める人には、ぜひ楽しく学んでほしいですよね!
シリーズは全て同じテイストの単語帳で、漢字はN1〜N3まで、語彙はN1〜N5まであります。
これの良さは、何と言ってもChapterごとの小テストがあることです。公式サイトからいつでも誰でも閲覧可能で、PDFでプリントとしてダウンロードすることもできるし、ブラウザ上ではGoogleフォームのように利用・閲覧することができます。
これから漢字や語彙を学び始める学習者には宿題や調べ学習としても使えるし、もうすでにある程度知識がある学習者には小テストを復習として使うことができます。
短い文章や会話(ミニストーリー)で、複数の単語をまとめて覚えることができる単語帳です。コーパス研究に基づいて、科学的に「よく出る」組み合わせでストーリが作られています。こんな素晴らしい研究と努力の成果を、生かさないわけにはいかないですよね!
「文法から伸ばす」と謳っているくらいなので、文法の学習が中心になりますが、場面別の会話や読み物でそれらを学ぶことができます。何の脈絡もない例文の集まりをただ読んでいくようなテキストよりは、マシなのではないでしょうか。翻訳や教師用のコンテンツ(絵カード、テスト、練習問題など)も充実しています。
ただしオンラインレッスンで扱うにはかなりボリューミーなので、学習計画(カリキュラムの検討)は必須です。
N2・N3・入門(N4)レベルの、読解に特化した問題集です。
初級の教科書を終えて文法や語彙を習得した人でも、長文を読むのは苦手な人はかなり多いです。そんな学習者でも、ステップバイステップで読解が「必ずできるようになる!」テキストです。
現在N3〜N5レベルの各分野(科目)が発売されています。充実した解説と翻訳が特徴で、試験に必要な最低限の力を短時間で身につけることが謳われています。
私は「日本語総まとめ」シリーズよりも、こちらの方をおすすめしています。
“練習”がしたい人向け
たくさんアウトプットして、自信をつけて試験に臨んでほしいですよね!
1冊に全ての科目(文字語彙文法・読解・聴解)がまとめられていて、解説が詳しいのがおすすめポイントです。12週間(N1)〜9週間(N5)で完成できるように構成されています。
模試3回分が収録されています。本の半分が模試、もう半分が解説という構成で、詳しい解説が私の学習者さんには人気でした。
文字・語彙・文法の問題を練習することができます。四六判(B6より大きくA5より小さいサイズ)なので、通勤通学中に読んでいる学習者さんが多い印象です。
N1〜N3レベルが順次発行予定です。何と言っても、一冊800円なのが嬉しい!
解説はついていないようですが、「とりあえず」の要望に応えるには十分な問題集だと思います。
専門家を紹介する
私は教師も「適材適所」だと考えています。苦手なことややりたくないことは、無理してやるべきではない、という考え方です。その道のプロを紹介できるというのも、日本語教師という同業者ならでは、なのではないでしょうか?学習者も、JLPT対策をほとんどやったことのない教師より、それを専門に教えている教師に学んだ方が、確実にプラスですよね。
※他の分野に関しても同じです。ビジネス分野ならビジネス、介護なら介護の専門(特化型)教師に習った方が、学習者としては長い目で見て幸せだと思います。
↑かおるさんはJLPT専門の日本語教師で、日本語教師向けにも教え方講座などを開いています。公式LINEやインスタグラム、noteなどでも情報発信をされているようです。
解説動画の共有
いかがでしたか?私のおすすめリソースの紹介は参考になったでしょうか。
新刊や各分野(語彙や読解)に特化したものなど、JLPT関連のテキストはまだまだたくさんあります。有名だから、広く使われているからといった消極的な理由ではなく、ぜひ学習者に合ったものを選んでほしいです。
たくさんありすぎてどれを選べばいいかわからないよ!というときは、私が相談に乗ります。私は教材研究が好きなので、一般的な教師よりも多くの教材に精通していると自負しております。困ったらぜひ頼ってください。
さらに以下の有料記事では、2023年4月に行った「日本語の検定試験を知ろう」の講座より、JLPTについて解説した回の録画と資料を公開しています。JLPTの概要や、何をどう測っているのか、具体的な試験問題、上記で紹介したJLPT対策教材+αについて、紹介・説明しています。録画は1時間38分、スライドは計45枚です。
「JLPT専門のオンライン日本語教師」は、今でもほとんど見たことがありません。これから自分の強みを作っていきたい方は、狙い所なのではないでしょうか!?