2022年11月から運営している、「オンライン日本語教師サポートプログラム」では、マスターテクストアプローチを使って会話授業の実践を行っています。
この記事では、そこでの実践内容(第2課)について共有します。
会話実習コース

※「実践実習コース」は、2023年8月「会話実習コース」に名称を変更しました。内容に変更はありません。
このコースでは、マスターテクストアプローチを使って会話の授業を行なっています。毎週の授業担当者を決めて、集客から授業実践、振り返りまでを行います。
他のメンバーの授業実践(録画)が見られたり、フィードバックがもらえること、教師同士のつながりができることなどが魅力です。
月額会員制のサブスクリプションサービスなので、いつでも入会・退会可能です。毎月説明会も開催しています。
実習の概要

「会話実習コース」のメンバーさんには、「あいうえお」が運営する日本語学習者向けオンラインコミュニティ「Nihongo Community Collede 邑-you-」で集客をしてもらっています。
レッスンの予約にはCalendlyというツールを使っていて、技術サポートもあります。コース卒業後も、ご自分のレッスンで使っていただくことができます。
7月には、私を含めたメンバー3名が、それぞれ3回ずつ授業を行いました。それぞれの授業録画は、「会話実習コース」の中で共有してあります。
授業の流れ
「会話実践コース」では「はなそう!みなとにほんご」を使って、基本的な会話授業の流れを練習しています。
1回のレッスンは25分です。時間が限られているので端折る部分もありますが、一つのマスターテクスト(モデル文)の使い方は以下の通りです。
※このやり方は、複数回授業を行ってみての個人的な感想です。課によっても異なる場合があります。
- タイトルと目標を確認
- 「はなしてみよう」を使ってスキーマ活性化
- イラストで語彙の確認
- イラストを見ながら、マスターテクストの音声を聞く
- マスターテクストに関する内容質問
- スクリプトを音読またはリピート練習
- イラストだけを見てディクトグロス
- マスターテクストを参考に、学習者自身の話をする
- 会話または書く
マスターテクストが複数ある場合は、これを繰り返していきます。
ただし時間内で全てのテクストを扱おうとするのではなく、1つ(2つ)のテクストをサンプルとして、学習者が自分自身の話をする8.や9.により多くの時間を割くようにします。
テクストは全部使えなくても全く問題ありません。会話をしたり、作文に書き起こしたりしながら、「学習者が本当に言いたいこと」を引き出せるように、アシストしましょう。
Unit2の分析
今回はUnit2「家族や友達、同僚について話す」の授業実践を共有します。
※「会話実践コース」のメンバーさんが実践された内容については、コースの中で共有しています。この記事では、私が個人的に行った授業について共有します。
注意点
学習内容は、テキスト「はなそう!みなとにほんご」をご覧ください。
テーマ
Unit2のテーマは「家族や友達について」です。
人によってはセンシティブなテーマなので、まだ関係性がきちんと構築できていない場合には話したくないという学習者もいるかもしれません。
そのような学習者とも練習ができるように、架空の人物(ドラマやアニメのキャラクター)やペットなどを使って練習できるように、あらかじめ準備しておくと良いでしょう。もちろん先に教師が自己開示するということも大切です。
また、テキストの中には家族・友達・同僚と3つの選択肢があるので、学習者に話したいこと(話せること)を自分で選ばせるというのも良い方法だと思いす。
テクスト
テキストP.8のマスターテクスト(エマさん・アルンさん)は、家族の写真を見ながら話している、または家族がその場にいるという前提のテクストです。
一方でテキストP.9のマスターテクスト(チョウさん・佐藤さん)は、家族のことをテーマに話しているという状況で、その場に写真があるかや本物がいるかどうかは関係ありません。
このような状況も踏まえて、授業ができると良いと思います。
文型
「〜歳」と「〜人」がしれっと出てきます。助数詞が苦手な学習者の場合は、さらっと復習を入れてもいいかもしれません。
※1〜100まで全てを確認する必要はありません。学習者が言いたいこと(「私の父は○歳です」「自分の家族は○人です」などの学習者自身のこと)が言えれば良いと思います。
語彙として、家族の名称も確認しておくと良いでしょう。父ーお父さん、妻ー奥さん、息子ー息子さんなど、内ー外の言い方も習得できると、リアルのコミュニケーションもスムーズに進むのではないでしょうか。
授業案
以下は25分レッスンの授業案です。
- タイトルと目標を確認
- 「はなしてみよう」(毎日の生活の中で、よく、だれといっしょにいますか)を使って、よく一緒にいる人をリストアップ
- イラストで語彙の確認
- P.8エマさんのイラストを見ながら、マスターテクストの音声を聞く
- マスターテクストに関する内容質問
- 教師の後に続いてリピート練習
- 教師の家族を紹介
- 学習者の家族を紹介
- P.9佐藤さんのイラストを見ながら、マスターテクストの音声を聞く
- マスターテクストに関する内容質問
- 教師の後に続いてリピート練習
- 学習者の同僚について会話
- 質問受付・まとめ(今日学んだこと)
学習者のレベルや授業時間によっては、2つ目のマスターテクストは扱わなくてもいいと思います。時間内に終わらせることよりも、「学習者がしたい話」ができるように心がけてください。
※初めての学習者さんが相手の場合は、1.の前に自己紹介をしてください。顔見知りの学習者さんの場合も、最初に簡単なアイスブレイクをしてから授業に入った方がスムーズだと思います。その際「家族や友達と〜した」という話を引き出せると、学習内容につながりやすいです。
内容質問例
イラストを見ながらマスターテクストの音声を聞いた後、きちんと内容が理解できているかを確認するために「内容質問」を行います。その質問例を置いておきます。
※テキストの中にも質問例がありますが、数が限られているので追加で検討が必要です。
エマさん | アルンさん |
・エマさんの家族は何人ですか ・誰がいますか ・息子さんは何人ですか ・息子さんは何歳ですか ・エマさんの子供は女の子ですか ・エマさんは何人(なにじん)ですか | ・アルンさんの家族は何人ですか ・お父さんとお母さんはドイツにいますか ・お姉さんはどこにいますか ・お姉さんの息子さんは何歳ですか |
チョウさん | 佐藤さん |
・チョウさんの家族は何人ですか ・誰がいますか ・娘さんは何歳ですか ・旦那さんは中国人ですか ・娘さんは学生ですか | ・佐藤さんの会社はどこですか ・パクさんは親切ですか ・佐藤さんの同僚の名前は何ですか ・パクさんはどこから来ましたか ・パクさんはどんな人ですか ・吉田さんはどんな人ですか |
実践内容
ここからは、私の実践を共有します。
就労者向けグループレッスン
企業のグループレッスン(この時の学生は2人)でこの課を扱いました。
学習者のレベルはN4〜3で、「一つのテーマについて深く話す」ということをあまりしてこなかったので、やってみました。
よく話せる方たちなので、マスターテクストが少し簡単すぎたという気もしましたが、内容質問や学習者自身の話をする時間を多く取ることで、個別化した学びにつなげられたと思います。
学校や独学などでは、用意された問題について考えたり読解する授業はあっても、「自分自身の話をする」活動を日頃から行なっている学習者は少ないのではないでしょうか。
試験はよくできるのに自分の話は全然できない、という学習者にはもってこいの学習法だと感じています。
マスターテクストアプローチでは、「練習のための練習」ではなく、「本当の話」「本当の質問」をすることができます。
この時の授業録画(34分)は、ブログ下部で公開しています。
50分プライベートレッスン
1コマ50分の、1対1のプライベートレッスン(オンライン)でも、このテキストを使っています。
学習者はN2取得済みですが、上記のN4〜3レベルの学習者よりも話せません。
知っている文法・語彙をアウトプットして、会話ができるようになりたいというニーズの学習者です。

↑こちらは授業で実際に使った(書いた)ノートです。↓

レッスン前半では、P.7のイラストを使って語彙を確認しながら、お弁当(昼ごはん)や家族について話しました。
後半は、P.8のテクストを使ってマスターテクストアプローチを体験してもらい、私の家族(猫)を紹介しながら会話をしました。学習者さんも猫を飼っていて、「秋に生まれたので”あき”と名前をつけました」と教えてくれました。
感想
「Unit1自己紹介」「Unit2家族・友達」のマスターテクストは、比較的簡単で短いので、トライアルレッスンでも使いやすいと思いました。
まずはマスターテクストなしでどのくらい話せるのかをお互いに確認してから、テクストを使った後でどう変化するのか、その差を学習者に感じてもらえれば、マスターテクストアプローチの効果を実感してもらうことができます。
学習者が「話せた!」と実感することで、必然的にレッスンの満足度も高くなるのではないでしょうか。
会話実習コースへの参加
「会話実践コース」は、月額制のサブスクリプションサービスです。入会・退会はいつでも可能です。
また多様な関わり方を受け入れています。
授業実践を行う人もいれば、他のメンバーの授業(録画)を見る専門の人、コミュニティ内の他コンテンツを活用して勉強する人、メンバー間で練習を行う人など、関わり方は人それぞれです。
月末には説明会を開催しているので、興味がある方はぜひそちらへご参加ください。
授業録画の共有
以下では、就労者向けグループレッスンの録画を公開しています。
60分授業の中でやってみたので、変な授業時間(34分)になっていますがご容赦ください:
日本語会話が入門レベルの人だけではなく、ある程度話せる人にもマスターテクストアプローチは有効だということをご理解いただければ幸いです。
※「実践実習コース」では、こちらの授業録画に加えて、他の方の授業実践や資料など多数のコンテンツが閲覧・利用可能です。コースへの参加を検討されている方は、↓記事のご購入よりもコースに参加していただいた方が断然お得ですよ〜。